家畜商の一日

家畜市場における取引家畜取引の流れ肉牛生産の現場から
■家畜市場における取引
家畜商が行う家畜の取引は、主に家畜市場で行われます。家畜市場とは、牛や馬、豚、やぎ、羊などの家畜を取引する市場で、家畜商業協同組合が開設する市場は、北海道から九州まで22の市場があります。ここでは、家畜を売りたい人と買いたい人が集まり、せりや入札によって公正な価格で家畜の取引が行われています。

市場での売買は、出品された家畜に参加者が値段を付け、もっとも高い値段をつけた人が落札します。参加できるのは、家畜商の免許を受けた人に限定され、家畜の取引を専門に行う家畜商をはじめ、家畜の繁殖を手掛ける農家や肥育を行う農家、食肉業や加工業を営む人など家畜を扱う専門家ばかり。市場では、1頭1頭家畜商の厳しい目で判断され、適正な価格の形成と公正な取引が行われているのです。

では、実際の市場はどのように行われているのでしょうか。家畜市場の一例として、山形中央家畜市場の一日を追いかけてみましょう。
 

このページのトップへ
■家畜市場の流れ
(写真をクリックすると拡大表示できます)

●参加者の受付
山形中央家畜市場で取引が行われるのは、毎週月曜日。せりが開始される午前10時を前に、参加する家畜商が集まってきます。集まってくる人は、市場での販売を目的にする人や市場での購入をする人などさまざま。どちらの場合も、最初に行うのは市場への参加受付です。家畜商の免許を持っているかを確認し、公正な取引が行われるように入念にチェックされます。この市場はせりによって売買が行われるため、買い主として参加する場合、決済のための保証金の有無も確認されます。
 
●搬入
受付が終わると、せりにかけられる家畜の搬入が始まります。この市場で扱われるのは肉牛が中心。この日市場へ搬入された牛は、肉牛の子牛をメインに、成牛や乳牛、やぎの出品も見受けられました。搬入された牛は、1頭1頭に生まれたときから付けられた、牛トレーサビリティ制度に基づく個体識別番号を印字した耳標を確認し、入場時の体重を計測していきます。計測された体重は肉用種の場合体重は重要な情報となるため、せりの時に品種や性別、生年月日とともに表示され、入札の指標となります。
 
●下見
当日せりにかけられる家畜は、搬入時の受付が終わると市場内に繋留されます。せりで買い付ける予定の家畜商は、せりが開始されるまでの時間に繋留された家畜の下見を行います。家畜の健康状態やケガの有無、毛づやや生育状態などを実際に見て回ります。この日、山形中央家畜市場に搬入された家畜の中心となる初生牛と呼ばれる子牛は200頭あまり。短時間で目当ての牛を確認していく作業は、家畜商としての経験や知識が活かされる場面です。
 
●せり
午前10時になると、いよいよせりが開始されます。引き手によってせり場の中央に出された牛たちは、せり人による家畜の説明がされ、せり人の掛け声とともにせりに掛けられていきます。この市場では、最新の自動電子せり機を使用し、入札者は手元のせり機を使用して応札。1頭のせりに掛かる時間は数十秒で、電光掲示板に表示された牛の情報と家畜商の目で値段が決められ、次々に落札されていきます。落札した購買者は落札書類を受け取り、落札した家畜を確認していきます。
 
●精算
せりが終了すると、せりに参加した家畜商は代金の精算を行います。市場の精算窓口では、購買者は買い付けた家畜の代金と手数料を支払い、競り落とした家畜の引渡し書類を受け取ります。販売者は落札された家畜の代金から手数料を引いた金額を受け取ります。山形中央家畜市場ではせりの成約率は約95%と高率で、市場へ入場したほとんどの家畜は家畜商の手によって、新しい購買者の元へと渡っていきます。
 
●搬出
家畜市場での取引が終わると、それぞれの落札者は落札した家畜を引き取って市場から搬出します。搬出に当たっては、市場で発行された家畜の引渡し書類と家畜に付けられた個体識別番号を照合し、間違いがないかを確認。市場から搬出された家畜は、家畜商の手によって引き取られていきます。山形家畜市場で取引の中心となる初生牛は、子牛を育てる肥育農家によって引き取られ、成牛になるまで育てられていきます。
(取材協力 山形県家畜商業協同組合 山形中央家畜市場)
 

このページのトップへ
■肉牛生産の現場から
(取材協力:蔵王高原牧場 関 利教様)
家畜商が扱う家畜の中で、もっとも取引の中心となるのが肉用牛です。食肉用に育てられる肉用牛は、子牛を産ませる繁殖、子牛から成牛になるまで育てる肥育、そして、と畜や食肉加工という段階を経て食肉となります。食の安全性が厳しく問われている現在、日本の生産農家では、安全でおいしい食肉を生産するために、あらゆる段階で厳しい安全基準のもとで肉用牛は生産されています。では、肉用牛の生産はどのように行われているのでしょうか。常時約2000頭の牛を飼育し、繁殖から肥育まで一貫して行っている農場を例に、食用牛の生産現場を見てみましょう。
 
●子牛の誕生(繁殖段階)
 
肉用牛の生産は、子牛の繁殖から始まります。母となる繁殖用のメス牛に、高い品質の肉用牛を産ませるために、優れた血統を持つオス牛を交配させ、子牛を出産させています。牛の妊娠期間は280~285日で、子牛は約30Kgの体重で生まれてきます。肉用牛、中でも和牛として生産されるのは、黒毛和種を中心に褐色和種、日本短角種などが中心。乳用牛のメスに和牛のオスを交配させたF1と呼ばれる交雑種の生産も行われています。子牛は、生まれてすぐに、1頭1頭、種別や出生年月日、オス、メス、母牛の個体識別番号を登録され、個体識別番号を与えられ耳票をつけられます。
 
●子牛から成牛への育成(離乳から成牛へ)
 
子牛は、生後6日ほどで母牛から離され、厳正に衛生管理された牛舎に入ります。子牛の場合、病気に対する抵抗力が弱いため、離乳するまでの約4ヶ月ほどの期間は特に衛生面に注意して飼育されます。この期間、牧場では牛舎を清潔に保つとともに、1頭1頭の健康状態を見て授乳を行い、細かく健康を管理しています。また、牡牛の場合は生まれて約2ヶ月程度で去勢が施されます。牛を育てる牧場で、もっとも気を使う期間といえるでしょう。子牛の毎日の健康状態をチェックし給餌量を調整し、牛舎内を快適にするために温度管理などを行い、健康で安全な成牛に育つようにと気を配られているのです。
 
●子牛の購入(繁殖農家から肥育農家へ)
 
この農場では、自社農場で繁殖した子牛だけでなく、市場を通じて繁殖農家から子牛を買付けての肥育も行っています。そのため、農場長は家畜商の免許を受けて家畜の取引ができるようにしています。買付ける子牛は市場で初生牛と呼ばれる、生後2ヶ月程度の子牛。市場に子牛を出荷するのは、繁殖を専門に手がける農家。大規模な生産を行っているこの牧場では、毎月市場から約40頭の子牛を肥育のために買い入れています。
 
●成牛の肥育(高品質の肉質をめざして)
 
成牛として成長した牛は、次の段階に進みます。生後約10ヶ月を過ぎ体重が約300Kgの成牛となった牛は、牧草や穀物などを配合された肥育用飼料を与えられ、本格的な肥育期間に入ります。この牧場では餌を自家配合し、健康で優れた肉質に育つように給餌量と餌の種類を細かく調整して育てていきます。肥育期間は生後24〜33ヶ月まで続きます。その間、農場で働く人たちは毎日担当する牛舎を清潔に管理し、健康に気を配ります。肥育の完了時には、約700Kgにまで育て上げられ、と畜場に出荷されていくのです。
 
●牧場の一日(よりよい肉牛を生産するために)
 
安全で健康な食用牛を育てるために、生産農家ではどんなことに気をつけているのでしょうか。今回取材した蔵王高原牧場の関農場長は、「生き物を育てる仕事だけに、毎日の作業に手を抜くことはできません。この牧場では、毎日、担当する牛舎の牛を確認することから始まります」といいます。牛の肥育期間は2~3年。その間、毎日2度の給餌と牛舎の清掃も欠かせません。病気にならないように健康状態も把握している必要があります。ただ餌を与えるだけではなく、「牛は生き物ですから1頭1頭性格も違います。細やかに気を配り、牛に快適な環境を作ることで、よりよい牛の肥育ができるのだと思います」とのこと。安全で健康な和牛の生産には、数多くの人が努力しているのです。
 

このページのトップへ

家畜商の仕事家畜商の一日家畜商になるためには講習会のお知らせ関係法令牛トレーサビリティ制度営業保証金供託制度家畜市場とは家畜市場一覧協会のさまざまな事業協会の概要総会資料お問い合わせリンク集

 

Designed by 41design